原子核中におけるカイラル対称性の回復の情報を得られると期待されている系について、さらに理論的な研究を発展させた。具体的には以下の通りである。 1、南部-ヨナラシーニョ模型(NJL model)に基づくη及びη'(958)中間子 昨年までの研究を発展させて、微視的な有効模型に基づいて、η中間子とη'中間子を統一的に扱い、媒質中における両中間子の性質変化を統一的に記述した。その上で、中間子原子核の構造と生成断面積を計算し、観測量と、微視的模型に含まれる理論パラメータの関係を明らかにしつつある。 2、K中間子原子核の構造及び生成反応の定量的な理論計算 近年大きな興味を持たれている、K中間子入射ハドロン反応によるK中間子-原子核束縛系の生成率を定量的に求めた。世界で初めての、実験と直接比較できるエネルギースペクトルの形での断面積の計算である。この結果、理論的に計算されているK中間子-原子核系の束縛エネルギーに対応するところに、実験的にピーク構造が観測されるかどうかは、単純に結論できない事が明らかになった。この結果は、現在観測されているピーク構造の解釈に変更が必要であるかもしれない事を示しておりきわめて重要である。 3、カイラル2重項模型に基づく、N*(1535)共鳴の性質とη中間子原子核 核内におけるN*(1535)バリオン共鳴の性質を、η中間子を使って研究した。N*(1535)は核子のカイラルパートナーである可能性があり、その性質に興味をもたれている。またη-核子系がこの共鳴に強く結合する事はよく知られていて、N*(1535)の有限密度における性質の変化がη中間子原子核に強く影響を及ぼす事が期待される。そこで、η中間子束縛系の観測量と、N*(1535)の性質を関連つける理論的研究を行った。その結果、N*の性質の変化がηの感じる原子核からの相互作用の強さに影響を与え、特に大きなエネルギー依存性が生じる可能性がある事がわかった。
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