研究概要 |
標準模型、とりわけ量子色力学(QCD)の予言精度の向上は、2007年のLHC実験の開始を控え、重要な研究課題となっている。高エネルギー物理過程では摂動論的QCDの手法を適用できることが知られているが、摂動論ゆえの問題も多々抱えている。摂動展開によるスキーム依存性、位相空間の端で生ずる摂動展開の破綻などがその例である。 本研究では、以上の状況を踏まえ、高エネルギーハドロン・ハドロン散乱における理論的予言の精度向上を目指した。具体的には、摂動展開の破綻に対処する軟グルオンの足し上げの問題、重いクォークを含むハドロン生成に関連する諸問題を考察した(本年度の研究実施計画に基づく)。LHCのような「未知」の高エネルギー過程では、何が起こるのかは想像が難しいので、まずは、RHICでのハドロン散乱におけるDrell-Yan過程を想定し、軟グルオン足し上げの問題を取り上げた(参考論文2)。微分断面積の予言が得られたとともに、予言精度の議論を行った(詳細を記述した本論文は、現在準備中である)。今後の課題は、この成果をLHC実験に拡張することである。 重いクォークを含むハドロン生成に関しては、未だ多くの基本的問題(理論的諸問題)が残されている。B中間子に代表されるハドロンは、その崩壊とともに、生成過程もLHCでは重要な問題となる。そこで、本年度ではB中間子の構造に関する理論的考察を行った(参考論文1,3)。この成果を将来のLHC実験にどのように役立てるかは、来年度の課題であるが、理論的に基本的な問題を明らかにできた点では大きな成果と考えている。
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