ハイパー核、すなわち核子NとハイペロンY(∧、Σ、Ξ)とから構成されるバリオン多体系の構造の特徴を明らかにし、それを通じてYN及びYY間の相互作用の特質を明らかにする事を目指す。相互作用模型の不定性は、実験データが極端に少ないストレンジネスS=-2チャネルにおいて非常に顕著になる。これまでに提案されてきた種々の模型は定性的にすら大きく異なっている。S=-2多体系の構造の分析を通じて相互作用の特徴がどのように発現しうるかを調べ、J-PARC等において発見が期待されるダブル∧核やΞ核に関する実験結果との比較に備えることが、我々の研究目的である。 海外共同研究者Th.A.Rijken(Nijmegen)が研究代表者(山本)との協力に基づいて提案したExtended Soft-Core Model(ESC)は極めて興味深い特徴を有している。ESCのNN部分は、極めて良い精度で散乱位相差のデータを再現しており、またS=-1部分に関しては∧ハイパー核等のデータとの良い整合性を示している。そして、顕著な特徴がS=-2チャネルに現れている。一つは、非常に強い∧∧-ΞN-ΣΣ coupling interactionである。その強さは従来提案されてきた中間子論的相互作用に例を見ないもので、ダブル∧状態に強いΞNやΣΣの成分の混合をもたらす。もう一つは、ΞNチャネルにおける興味深いスピン・アイソスピン依存性である。T=0^3S_1状態においてのみ非常に強い引力になっており、その他の状態では弱い引力もしくは斥力になっている。このことは、特定のスピン・アイソスピンを有するΞ-核状態が強く結合しうることを示す。本研究計画において、S=-2バリオン多体系(ダブル∧パイパー核、Ξハイパー核)に対して、ESCその他の中間子論的相互作用を用いた構造計算を系統的に行い、相互作用の特質が物理量にどのように現れ、今後の実験によってどのように峻別できるかを明らかにした。
|