昨年度の研究で、ブレーンワールドでは4次元時空の重力理論の場合と異なり、タイプIのコズミック・ストリングが衝突合体を繰り返して線密度を増加させ、最終的に重力崩壊してブラックオブジェクトになりうることを示した。このとき、重力崩壊したコスミック・ストリングが時空特異点に突入するのか、あるいはその宇宙項的な負の圧力の効果で、インフレーションを起こし、ブラックオブジェクトの中に別の宇宙を作りうるのかどうかは、問題として残されていた。この問題に関しては、昨年度から研究を行っていた4次元時空におけるモノポールの重力崩壊が、重要なヒントを与えてくれた。この研究では、モノポールを球形の宇宙項で近似し、その表面(ドメインウォール)の運動方程式を解析的に解くという方法を採用したので、時空の大域的な構造を明らかにすることができた。これまではインフレーションが起きるためには、ビッグバンのような初期特異点の存在が必要条件であると考えられてきたのだが、この解析の結果、それは必ずしもそうではないことが明らかになった。初期特異点が無い場合でも、ブラックオブジェクトに入ったモノポールの中でインフレーションは原理的に起きうるのである。しかし、初期特異点は無くてもブラックホールの中に荷電ブラックホールの内部に存在する時空特異点と同じ構造の裸の特異点が発生することも同時に明らかになった。このような事態は、ブレーンワールドでのコスミック・ストリングの場合も起こる。その関連もあり、昨年度から継続している円筒状に分布するダストの重力崩壊についての研究において裸の特異点を取り扱う方法を考案し、適切な境界条件を裸の特異点上に要請すると、その特異点は非常にマイルドなものになり、古典重力理論の枠内で、十分取り扱い可能になることが明らかになった.
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