研究概要 |
平成18年度の研究実績は次の通りである: 1)有効クォーク理論の枠組みで有限原子核の構造関数を計算した(論文リストNo.1)。その際、単独の核子の記述をクォーク・ダイクォーク模型、原子核の記述を相対論的平均場近似を基準として、原子核の非偏極および偏極構造関数を求めた。Li-7,B-11,N-15,Al-27などの原子核を取り上げ、非偏極構造関数を実験データと比較し、我々のモデルは通常のEMC効果を非常によく再現できることが分かった。次に、同じ原子核に対して偏局構造関数を求め、この有効理論による予言を提供した。偏極構造関数に対する媒質効果は通常のEMC効果よりも大きいであることを指摘した。原子核におけるスピンの和側を計算し、媒質中のクォークスピンの寄与は小さくなり、クォーク軌道角運動量の寄与は大きくなることを指摘した。その結果とハドロン物理学における「核子のスピン危機」および原子核物理学における「スピン行列要素のquenching」両者の問題との関連を議論した。この計算による予言は将来の偏極加速器実験に大きなインパクトを与え、アメリカのJefferson国立研究所で実験計画も具体的に進められている。 2)上記のモデルによる核物質の状態方程式を高密度領域へ拡張し、クォーク物質への相転移の影響も入れた状態方程式を求めた(論文リストNo.2)。その際、核子内のクォーク間の相互作用および高密度クォーク物質の超伝導状態を引き起こすクォーク間の相互作用との関係について調べた。この研究で得られた状態方程式を使って、中性子星の内部構造について研究した。クォーク間のpairing相互作用の強さにより、中性子内部でクォーク物質は実現可能であることを指摘した。また、クォーク星が存在するかどうかにしても考察し、この理論の予言としてクォーク星の質量、半径などを求めた。
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