研究概要 |
平成16年度から平成18年度までに行われた研究成果は次の通りである: 1)核子を相対論的な3クォーク状態と見なし、スカラーおよび軸性ベクトル型ダイクォークとクォークから成る束縛状態として記述した(論文リストNo,1,2)。核子中のクォーク分布、非偏極および偏極の構造関数を求めた。得られた結果を深非弾性散乱実験データおよび経験的なパートン分布関数と比較し、我々のクォーク・ダイクォーク模型は単独の核子の構造関数をよく再現できることを示した。 2)核物質中の核子の構造関数に対する媒質効を評価し、有限原子核の構造関数を計算した(論文リストNo.3,4)。核子のクォーク内部構造の影響を取り入れた核物質の状態方程式および上記の核子の模型を利用して媒質中のクォーク分布関数を求めた。非偏極のパートン分布と偏極のパートン分布に対する媒質効果を比較し、偏極パートン分布に対する媒質効果(polarized EMC effect)の方が大きいであることを指摘した。有限な原子核の構造関数を求めるために、原子核に対する平均場近似および核子に対するクォーク・ダイクォーク模型を利用した。原子核の非偏極構造関数を記述するために、原子核中のベクトル型平均場は非常に重要な役割を果たしていることが分かった。高エネルギーレプトン・原子核散乱で得られた実験データを定量的に再現した上で、原子核の偏極構造関数をモデル計算で予言した。この偏極EMC効果を測定するために原子核の候補も具体的に取り上げて議論し、将来の偏極レプトンビーム実験計画に大きなインパクトを与えることができた。 3)他の高エネルギー散乱過程も記述し、我々のモデルの応用範囲を拡張した(論文リストNo.5,6)。具体的に、核子の形状因子の媒質効果を評価し、電子・原子核の準弾性散乱に対する応答関数を求めた。また、深非弾性散乱における粒子の生成過程(exclusive process)を記述ために重要な役割を果たしている一般化されたパートン分布関数も計算し、経験的な分布関数との比較を行った。高エネルギー散乱過程を記述する際、核子中のダイクォーク相関が大変大きな役割を果たしていることを示した。
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