研究概要 |
南極周回気球(PPB : Polar Patrol Balloon)は、2004年1月5日午前0時57分(日本時間)昭和基地において放球に成功した。気球はオートバラストシステムによって平均高度35km(7.4g/cm2)に保たれ、搭載したPPB-BETS観測装置は正常に動作し、約13日間のフライトに成功した。PPB-BETS検出器は、入射粒子が生成するシャワーを画像化することで、粒子の選別、入射方向の決定、エネルギーの測定を行う検出器で、鉛板、シンチファイバー、トリガー用シンチレータから成り立っている。100GeV以上のイベントデータは、観測全期間中イリジウム衛星電話通信によって日本・極地研にダウンリンクし、放球直後の昭和基地との直接交信が可能な領域では、10GeV以上のイベントデータを64kbpsの転送速度で昭和基地にダウンリンクした。今回のPPB-BETS実験で、10GeV以上のイベントは22,000イベント、100GeV以上のイベントは5,700イベントを収集した。収集したイベントにはバックグラウンドとなる陽子やガンマ線イベントが含まれているため、以下の手順で電子選別を行った。まず、得られるシャワー画像は実際の検出器内のシャワーとは異なるCCD画像であるため、画像の再構成を行った。再構成画像からシャワー軸を決定し、シャワー軸の天頂角が30度以内、シャワー軸が検出器底面で周囲2cmより内側のイベントを選別した。さらに、陽子は相対的に広がったシャワーを示すため、エネルギー集中度(シャワー軸から5mm以内の輝度の和と全体の輝度の和の比)が0.75よりも大きいイベントを選別し、陽子イベントを除去した。残ったガンマ線と電子の選別は、0r.l.でのシンチファイバーシグナルの有無により判別を行った。最終的に、100GeV以上のイベントで、選別した電子イベント数は約100イベントであり、100GeV-1TeVの一次電子エネルギースペクトルの導出に成功した。
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