研究概要 |
今年度は次の2件の研究について実績を報告する。 1.強電場下の超格子における励起子Fano共鳴の光吸収スペクトル 多電子原子系の顕著な特徴であるFano共鳴は、低次元半導体における励起子系でも発現することが知られている。ここで静電場(F_0とする)下の半導体超格子(Wannier-Stark ladder, WSL)における励起子Fanoスペクトルを理論的に解析した。F_0が大きくなるに従い、超格子のミニバンド間のZener結合が支配的になり、スペクトル形状に特異な変調が現れた。特に、低エネルギー領域では吸収端の赤方遷移が現れ、その吸収強度はF_0に関して振動することが分かった。また、高エネルギー領域では、Fanoスペクトルの形状が不規則に変化することがわかった。これらはZener効果によるWSLサブバンド間の反交差により定性的に理解できる。つまり、Zener共鳴が発現する近傍にF_0が印加されると、WSLサブバンド間の強い結合により伝導電子の非局在化が起こり、吸収端の赤方遷移や不規則なスペクトル形状の変化が現れると考えられる。 2.周期的なパルス列による動的WSLの擬エネルギー構造と量子制御 上記のWSL系の積層方向に、更に周期的パルス列を有するレーザーを印加した動的WSLの擬エネルギー構造とその光吸収スペクトルを調べた。短パルス幅、短パルス間隔および大きな出力強度を有するこのようなパルス列は、ごく最近Raman過程を利用することにより生成できるになり、新しい光源としてのその利用が模索されている。パルス波形がある特別な場合(矩形パルスおよび鋸型パルス)、静的および動的なZener効果が消失するような量子制御が実現できることが分かった。また、他のパルス波形ではZener効果の消失は実現できないが、代わってZener効果により光吸収に特異な変化が現れた。通常、光吸収は正であるが、ある条件下で「負の」光吸収、つまり利得が現れることが分かった。周期的パルス列には様々なレーザーパラメータが含まれているため、これらをうまく選択すると、Zener効果によるサブバンド間結合の程度を制御でき、多様な物理現象を発現できることが可能になることが期待できる。 これらの研究結果は、現在論文投稿中である。
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