混晶半導体で作られた量子井戸構造での電子状態を計算できる信頼できる理論の確立および窒化物混晶半導体の組成ゆらぎと熱処理による変化について理論と実験の両面から研究を行った。 理論面では、CPAを並進対称性のない有限サイズ系に拡張することに成功した。この理論をもとにA_<1-x>B_x混晶量子井戸中の電子エネルギー状態密度と光吸収スペクトルを計算し、各種パラメーターや組成x依存性、および量子井戸の次元性とサイズによる依存性を定量的に明らかにした。電子構造は定性的には次元性で決まり、元々のband構造の異方性は定量的な差として効いてくること、また、状態密度が分離するか融合するかに関する組成依存性は、当初予測されたような単調変化ではなく、対応する結晶量子井戸の状態密度を反映した変則的な変化をすることが判明した。次にtransfer energyに関する非対角的な乱れの効果についてLocator展開によるGreen関数への取り込み方法を考案した。 実験面では、近赤外用発光素子材料として重要な希薄窒化物半導体GaInNAsSbのSb原子周辺の構造を、大型放射光施設SPring-8のBL01B1ビームラインを利用しX線吸収微細構造法(XAFS法)により測定した。また、第一原理計算による結晶の局所構造の物性予測も行い、その結果をXAFS測定のシミュレーションソフトに入力し、実験結果との比較も行った。その結果、GaInNAsSbは熱処理を行うことにより、Sb原子周辺に存在していたIn原子がGa原子に置き換わるという構造変化を起こすことが分かった。この構造変化は、最も大きなイオン半径をもつSb原子の隣接サイトにイオン半径の大きなIn原子があった場合、それがイオン半径の小さなGa原子に置き換わることで局所的なひずみが小さくなり、結晶全体のエネルギーを小さくしたことを意味する。残された問題は、構造変化を起こす駆動力は何か、また構造変化がどのように光学物性に影響を与えているのか、ということである。
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