今年度は、強磁場中の細線における不純物ポテンシャルの空間相関について数値計算を用いて系統的に調べた。現実のサンプルにおける不純物ポテンシャルは、有限の到達距離を持ち、このためランダムポテンシャルは空間的な相関を持っている。このようなポテンシャルの相関の影響がコンダクタンスにどのように現れるかを量子ホール細線において調べたところ、非常に興味深い結果を得た。このため、今年度は、まずこの間題を中心に研究を行った。 通常、このような量子ホール細線におけるコンダクタンスは、エッジ状態と呼ばれる系の境界に沿って現れる状態によって決まり、その状態数に依存して量子化されたコンダクタンスをもつ。エッジ状態の数はバルクのランダウ準位の位置で変化するため、フェルミエネルギーの関数としてみると、量子化されたコンダクタンスのステップがみられる。この系に不純物ポテンシャルがあると、バルクのランダウ準位の付近では、ポテンシャルによる散乱の効果により、バルクの状態や反対側のエッジ状態間の混合を生じ、コンダクタンスがゼロになる現象がおこる。このため、ステップの位置でコンダクタンスが量子化値からゼロになる転移がみられる。 このような系において、ランダウアー公式に基づき、転送行列法を用いてコンダクタンスを数値的に調べた結果、ランダムポテンシャルの相関長が磁気長よりも長くなると、 1.コンダクタンスがゼロになる領域がなくなり、ステップが回復する。 2.コンダクタンスのステップの位置が一様に高エネルギー側にシフトする。 ということがわかった。1についてはポテンシャルが滑らかになり、大きな運動量変化を伴う散乱が抑制されることから予想されていたが、2については今回の数値計算で初めて明らかとなった。このことは、コンダクタンスのステップ位置がバルクのランダウ準位でおこるとは限らないことを意味し、実験的にも重要であると考えられる。また、ポテンシャルの構造やコンダクタンスのサンプルごとの詳しい解析を行い、この現象が半古典的な議論で理解できることを示した。 こうしたポテンシャル相関の効果を明らかにできたことは、量子ホール細線において電子相関の効果を考えていく上においても有用であると考えている。
|