平成16年度、17年度は、主に2次元ランダム磁場系において、磁場の平均値と揺らぎが同じ程度の場合にコンダクタンスが磁場の強さによらず、量子化コンダクタンス程度の一定値をとるという興味深い現象について詳しい解析を行った。2次元ランダム磁場系は電子問相互作用が重要な役割を果たしている分数量子ホール系を平均場理論で解析する際に現れる系である。その結果、エッジ状態がない場合には、弱磁場極限に特異性が現れることを数値的に示し、その特異性が古典的なドルーデ公式をもちいて理解できることを示した。また、弱磁場では、コンダクタンスにきれいなシュブニコフード・ハース振動が見られることも示した。 さらに、コンダクタンスの統計的な性質についても調べ。コンダクタンスの臨界分布関数について詳しく調べた。その結果、エッジ状態のない場合の分布は、他の量子ホール系の分布と同じような分布を示すこと。これに対し、エッジ状態がある場合は、コンダクタンスはエッジ状態の影響を強く受け、幅がコンダクタンス量子程度の箱型に近い分布を示すことがわかった。 平成18年度は、ポテンシャルの空間的な相関が量子ホール細線において興味深い影響を及ぼすことを示した。現実の試料では不純物ポテンシャルは有限の大きさの到達距離を持ち、ポテンシャルは空間的に相関を持っている。このため、実験との比較を行う際に、電子相関とともにポテンシャルの相関を考慮することが重要である。量子ホール細線においては、不純物が無ければ、バルクのランダウ準位の位置でエッジ状態の数が増えるため、コンダクタンスは階段状のステップを示す。不純物があると、バルクの状態とエッジ状態の混合がおこり、ステップの位置でコンダクタンスがゼロになる現象が起こる。我々は、ポテンシャルの相関距離が磁気長よりも長くなる場合、状態間の混合が減り、コンダクタンスがゼロになる領域が消失すること、さらに、これによって回復したコンダクタンスのステップが一様に高エネルギー側にシフトすることを明らかにした。このようなシフトは本研究によって初めて見出されたもので、これが半古典的に理解できることをしめし、他の量子ホール系においてもこの理解により予想される結果を数値的に確認することができた。
|