本研究の課題の目的の一つは、強相関のもとでの電子・格子相互作用の光学応答に対する役割の解明と、バンド絶縁体との相違性、類似性の明確化である。この目的達成のため本年度は、次の二点に関する研究を行った。 (1)光学応答に対する強相関効果を明らかにするため、強結合極限でのハバード模型に対して光吸収の温度変化の計算を行なった。手法は、数値的厳密対角法である。これまでの研究から絶対零度では強相関に起因するスピン自由度の存在が光学応答スペクトルの形状や次元依存性を決めていることが分かってきた。温度の増加ととも局在スピンは熱的に揺らぐため、お互いの相関が大きく変化する。このスピン相関の変化が、絶対零度の特徴をどのように変化させ、またその結果、温度効果がどのような形で光学応答に現れてくるのか明らかにした。特に、一次元系では温度効果は小さく、一方二次元系では大きいことが分かった。また、実験結果との対比から、電子系だけでは記述できない効果(電子・格子相互作用による効果)が一次元系の温度変化を支配していることが示された。 (2)光吸収スペクトルの形状の電子間相互作用の大きさによる変化を明らかにするため、動的密度行列繰り込み群法を用いて一次元ハバード模型の光学伝導度を計算した。特に、サイト内クーロン相互作用とサイト間クーロン相互作用を変化させたとき、どのような条件でモットギャップ端に束縛状態が形成されるか調べた。その結果、サイト内クーロン相互作用がバンド幅よりも大きな場合は、サイト間クーロン相互作用が電子遷移エネルギーの2倍以上のときに束縛状態が形成されることがサイズスケーリングから明らかとなった。この結果をもとに一次元銅酸化物モット絶縁体の光学伝導度の実験結果との比較を行った。
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