本研究では、銅酸化物モット絶縁体の光学応答を様々な角度から検討し、モット絶縁体の光物性の物理を構築することを目的とした。特に、1.強相関のもとでの電子・格子相互作用の光学応答に対する役割の解明と、バンド絶縁体との相違性、類似性の明確化、2.銅酸化物絶縁体の非占有状態の詳細を調べる新しい分光測定法の提案、の二点を研究の中心課題とした。銅酸化物をハバード模型およびその有効模型を用いて記述し、光励起状態や光学応答に関わる様々な物理量の計算には数値的手法を用いた。多体問題を扱わなければいけないので、近似を用いない数値計算は威力を発揮する。具体的な手法としては、ランチョスアルゴリズムに基づく厳密対角化法、および密度行列繰り込み群法を用いた。光学応答スペクトルを計算する際は、補正ベクトル法と呼ばれる手法を厳密対角化法および密度行列繰り込み群法に適用した。得られた成果は大きく5点に分けられる。それらは、(1)一次元モット絶縁体の光吸収スペクトルにおけるエキシトン効果の解明、(2)非占有状態を調べる角度分解二光子光電子分光法の二次元銅酸化物モット絶縁体への適用と理論予測、(3)一次元モット絶縁体の一粒子励起スペクトルの温度依存性の解明、(4)二次元モット絶縁体の光励起状態の対称性の解明、および(5)一次元モット絶縁体の一粒子励起スペクトルに対する電子光子相互作用の効果の解明である。(1)から(4)の成果については、すでに論文として発表されている。(5)の成果に関しては現在投稿中である。これらの論文のほか、著書(共著)の中で本課題に関わる成果について詳細に述べている。このように二年間の研究において多くの成果が得られ、研究の目的の多くを達成できたと考えている。
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