本研究の目的は、高温超伝導銅酸化物と同型の結晶構造を持つNi酸化物における特異なストライプ秩序の発現機構を解明するために、不純物イオンを注入して、ストライプ秩序への影響を中性子回折実験により解明することである。しかしながら、中性子散乱実験において優れた実験データを出すためには、高品質の大型単結晶試料が不可欠であるので、初年度の平成16年度は、種々の酸化物について中性子回折実験用の大型単結晶試料の作成に専念した。その上で、得られた試料の帯磁率・電気抵抗等の基礎物性を測定し、中性子散乱の予備測定を始めたところである。 また、Mn酸化物で磁場誘起による異常誘電率が観測されているTbMnO_3系を取り上げ、その磁気構造を決定し、中性子非弾性散乱実験によりスピン波の励起スペクトルを明らかにした。この系では、大変異常な不整合スピン波励起が観測され、その原因を現在解明中である。 最近、高温超伝導銅酸化物と同型の結晶構造を持つCo酸化物のホールドープ条件下において電荷秩序が形成されているらしいことが明らかになりつつあり、その近傍では高スピンから低スピンへのスピン状態の変化と金属絶縁体転移も観測され、その機構の解明が興味を持たれている。我々は、中性子非弾性散乱実験を用いて磁気揺らぎのエネルギースペクトルを研究することにより、その機構を解明する目的で、非弾性散乱実験用の大型単結晶を作成しているが、最近、その作成に成功した。 一方、金属間化合物としては異常高い超伝導転移温度を持つMgB_2の超伝導の特性を研究するため同型の結晶構造を有し単結晶試料が作成可能なCaAlSiを取り上げ、そのクーパー対形成に関与していると予想されている特定のフォノンモードを測定し、スペクトル密度および分散関係に著しい異常があることを見いだし、その原因を理論的に解析しているところである。
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