濡れ層の厚みが不連続に変化する前駆濡れ転移は、2次元における液体-気体相転移と見なされ、その臨界現象についても関心が寄せられている。特に、水銀/サファイア系においてはく前駆濡れ臨界点と3次元の液体-気体相転移の臨界点が隣接しているため、2次元と3次元の臨界現象のクロスオーバー現象が期待される。本研究では、サファイア基板上の水銀濡れ層に対し、光学的な方法で前駆濡れ臨界点近傍での濡れ層の静的・動的性質を実験的に調べることにより、2次元と3次元の臨界現象のクロスオーバー現象の詳細を明らかにすることを目指している。 本年度は、まず既存のシングル・フォトン・ディテクターとコリレーターにより、動的光散乱測定を行った。その結果・気液相転移(LG)と前駆濡れ転移(PW)の間で、10^1〜10^3msecの領域に緩和が観測された。散乱光の自己相関関数に対してCurve fittingを行った結果、この緩和は水銀濡れ層に生じた表面波によるものであることを示唆する結果が得られた。 前駆濡れ転移の臨界温度(T_C^<PW>)より低温領域では、高圧側からPW線に近づくと、振動周期・緩和時間が短くなる傾向が観測された。一方、T_C^<PW>よりわずかに高温の領域では、前駆濡れ転移臨界圧力近傍で振動周期と緩和時間が逆に長くなることが見いだされた。これは、前駆濡れ転移の臨界スローイングダウンを観測しているものと考えられる。 さらに我々は、CCD検出器を用いた動的光散乱測定システムを新たに立ち上げた。これにより、今までは困難であった広い散乱波数領域での振動周期や緩和時間の短時間での測定が可能となった。これを用いて、例えば、濡れ層の表面波の分散関係に3次元臨界現象による揺らぎがどのように関わっているか、また臨界点近傍での相関長の発散や臨界スローイングダウンがどのようなスケーリング則に従っているか、などを明らかにすることができると期待される。
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