研究概要 |
層状第二種超伝導体κ-(BETS)_2FeBr_4について,実験的に得られている温度磁場相図を理論的に再現した。ここで、BETSとは,bis(ethylenedithio)tetraselenafulvaleneのことである。この物質では,Konoikeらによって,二つの方向(結晶軸のa軸とc軸の方向)の面平行磁場(伝導性の良い面に平行にかけた磁場)について,低磁場中の超伝導に加え,強磁場中でも磁場誘起超伝導が生じることが発見されている。また低磁場では反強磁性も生じており,超伝導と反強磁性長距離秩序が共存していることが知られている。この物質に対して,Jaccarino-Peter機構を反強磁性超伝導体に拡張した理論(拡張Jaccarino-Peter機構)を適用し,磁場誘起超伝導の臨界磁場から見積もったモデルパラメーターに基づいて低磁場での超伝導の上部臨界磁場を計算すると,実験データを定量的にほぼ再現できることを示した。このことから,拡張Jaccarino-Peter機構がこの物質で実現していると考えることができる。この機構によれば,反強磁性の交換相互作用の強さが,局在スピンと伝導電子の間の近藤交換相互作用の強さと同程度のときに,低磁場での超伝導の上部臨界磁場が,非常に高く,場合によってはパウリ常磁性極限をはるかに超えた値にまで増大することが可能である。またκ-(BETS)_2FeBr_4においてFulde-Ferrell-Larkin-Ovchinnikov状態(FFLO状態)が可能であるかどうかを,理論的に予測した。その結果,磁場誘起超伝導相ではFFLO状態は起きにくいが,低磁場の超伝導相ではFFLO状態が起きる可能性があることが分かった。この結果は,臨界磁場の実験データと矛盾しない。これらの結果については,現在投稿中である。 重い電子系の超伝導体UPd_2Al_3において,超伝導の対称性と対形成相互作用の微視的起源を調べた。この物質では面内で強磁性に秩序した層が反強磁性に重なった磁気構造の長距離秩序と超伝導が共存している。このような磁気構造では面内の対形成がフェルミ面の分裂によって妨げられ,面間の対が形成されていると考えられる。さらに,このような磁気構造を安定化させる反強磁性的な交換相互作用は,面間のスピン1重項超伝導の対形成相互作用として働き,そのような対であれば,面内のフェルミ面の分裂によって妨げられないことを示した。このことから,この物質では,面間のスピン1重項超伝導が有望と考えられ,その場合,水平ラインノードと呼ばれる秩序変数の面に平行な零点の集合が生じることになるが,この結果は,熱伝導度と核磁気共鳴の実験データと矛盾していない。
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