金属絶縁体転移を示す遷移金属硫化物BaVS_3は六方晶の結晶構造を持つが、磁性を担うバナジウム原子がc軸方向に1次元鎖、c面内で三角格子を組むという特徴がある。構造の低次元性、幾何学的フラストレーションあるいは軌道縮退の存在といった特徴から、長く研究者の注目を集めてきたが、未だ金属絶縁体転移の起源に関する議論は沈静化していない。特に、最近は単結晶を用いた質の高い実験や洗練された理論が報告されるようになり、研究はますます活発になってきている。研究代表者は、前任地の京都大学で、テルルフラックス法を用いた単結晶作製の経験を長く積み重ねると同時に、試料を学外の様々な研究機関に供給し、BaVS_3の研究をプロモートしてきた。本研究の目的は、現在の所属機関である兵庫県立大学にBaVS_3の単結晶を作製する設備を整備し、学外研究機関に試料を供給すると同時に、BaVS_3の物理の新たな展開を模索することが目的である。本年度は試料作製環境の整備の一環として、その補助金のほとんどをX線回折装置の購入に充てた。その結果、純良単結晶の効率的な作製が可能となり、現在、複数の学外研究機関に試料を定常的に供給している。また、他の関連物質の作製や、新たな物質探索が進行中である。学内においては、現在、単結晶を用いた圧力・磁場下の測定を進めているところである。一方、BaVS_3の金属絶縁体転移は「金属からクラスタへ」の転移であるという感触を得ているため、バナジウム硫化物の金属クラスタ化合物の研究、特にNMRを用いた研究、を幅広く行っている。その一例として、GaMo_4S_8型の結晶構造を持つ一連の磁性金属クラスタ化合物の研究を行い、その一部を論文として報告した。関連研究は非常に広範囲に広がっているが、現在、まとめの段階に来ており、来年度にかけて、順次、論文として公表していく予定である。
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