本研究では局所密度近似(LDA)と動的平均場理論(DMFT)を組合せる事により、遷移金属酸化物表面の強相関電子の電子構造を第一原理から計算した。この際、量子モンテカルロ法(QMC)を用いて、DMFTの計算に必要なアンダーソン不純物問題を解いた。系としては精密な光電子分光の実験が最近行われたSrVO_3(001)表面を選んだ。本系は立方ペロブスカイト型の結晶構造を持ち、バルクでのVの電子配置は(3d)^1である。 実験的にSrVO_3の表面構造は知られていない。そこで、まず緩和の無い理想表面の電子構造を、SrO層が終端面の場合とVO_2層が終端面の場合の両者にについてエムベッディッドGreen関数法によりLDAの範囲で計算した。次にユーリッヒ研究センターのWortmann博士との共同研究により、終端面が異なる2表面について、FLAPW計算プログラム(FLEUR)を用いて表面垂直方向の原子緩和を全エネルギーから決定した。その結果、V原子を囲む酸素原子の表面に置ける変位は小さいことが分った。 以上、終端面がSrO層とVO_2層の場合、また原子緩和の有無により、4つの半無限系の電子構造がLDAの範囲で得られた。このすべてについて、ユーリッヒ研究センターのLiebsch博士との共同研究により、表面V原子の3個のt_<2g>軌道に射影された局所状態密度を用いて、Vの準粒子スペクトルを、QMC-DMFT法により計算した。SrO層-終端表面の場合は、垂直方向の配位数の減少により、Vのd_<xz>、d_yz>バンドの有効バンド幅が表面で減少するため、準粒子スペクトルに強相関系の特徴がバルクよりも顕著に現れることが分った。これは表面構造の詳細に依らない一般的な表面効果であると考えられる。一方、VO_2層-終端端表面の場合は、V原子を囲むO原子の正八面体構造が失われることにより、V価電子の電子構造が大きく変化することを示した。特にd-軌道間の縮退が取れ、軌道間に電荷移動が起こること、さらにこの軌道分極が電子相関の効果により増強することを示した。
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