研究成果として重要な項目を以下の4点にまとめる。 1.小さな非平衡系において定常状態をつくると、容易に線形応答領域から離れる。そのような領域では、揺動散逸関係が成り立たないことが知られていた。詳細つりあいの条件がなりたたない状態に微小外場をかけて応答をみても、それは揺らぎと直接関係しないことは、数学的には自明である。この自明なことが実験的に観測されはじめたとき、自然に問題となるのは、そこに何も法則がないままなのかどうかである。私たちは、揺動散逸関係の破れがエネルギー散逸と定量的に関係している事実を見出した。 2.定常状態間遷移に伴う第2法則を定式化した私たちの研究をうけて、非平衡系における有効相互作用を操作的に決める提案をした。また、定常状態熱力学の現象論的な可能性について、現段階の知見をまとめた。 3.ナノ流体における降伏応力の起源をミクロレベルから説明する理論を提案した。降伏応力の起源は一般には複雑であるが、対象をナノ流体に制限することにより明晰な結果を得ることができた。とくに、ずりシニング指数の第一近似を2/3とする論理は、今後の発展の基盤になろう。 4.揺らぎと応答の異常性が端的にあらわれる典型的な例のひとつがガラス転移である。小さな系においてもガラス化に伴う新しい現象が発見されている。私たちは、ガラス転移を記述する新しい理論を提案した。非エルゴード転移がサドル接続分岐に対応することを示し、その分岐点近くにおける揺らぎの理論を構築した。動的事象の臨界揺らぎに関する臨界指数を計算した。
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