自由度の大きな保存力学系(多自由度ハミルトン系)の時間発展がどのような特徴を示すものであるのかは、単に非線型力学系理論のみならず、統計力学の基礎問題として、また、化学反応系などのように、構成粒子(分子など)の動的な特性が重要になってくる系において極めて重要な問題である。力学系理論の中では、多自由度ハミルトン系の典型的な挙動であり緩和過程の基礎過程として「アーノルド拡散」と呼ばれる過程が存在することが予言されていた。 これについて、 ●予想されていた「アーノルド拡散」が実際に存在すること ●線形摂動の範囲内で得られていた「アーノルド拡散」の大きさの評価が実際にほぼ正しいこと ●「拡散」という名前が付いているが「アーノルド拡散」は実は時間的に強い相関を持った運動であること が初めて明らかになった。 この結果によりアーノルド拡散に対する理解が大きく進んだと言える。また、アーノルド拡散が時間的に強く相関した運動であることから、化学反応系や生体分子、少数多体系などにおいて、その運動を「熱ゆらぎ」ではなく実際に運動方程式(ハミルトニアン)に基づいて理解し直すことが重要であると言える。 また、自己重力多体系における非熱的振舞いと構造の自発的形成に関して、新たなモデルにて一般化を図った。ポテンシャルを一般化して|r|^α型とした場合、これまで考えられていた、相互作用ポテンシャルがべき型(すなわち特徴的スケールを持たない)なので、生じる相関もべき型になる、という考え方が精密化され、ポテンシャルのべきの指数によって相関が変わることがわかった。
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