研究概要 |
18世紀にイギリスで始まった産業革命はワットの蒸気機関に代表される動力革命であった。エンジンの技術や性能は目覚しく進歩する一方で,その基本的理解の方法はカルノーの理論以来めだった進歩は何も見られない。我々はエンジンを非平衡デバイスの観点から理解するために,非平衡開放系で発現する散逸構造の典型例である熱音響自励振動を原動機として捉え,原動機内部の圧力および流速分布を測定することから研究を始めた。利用した原動機は直径40mm,全長3mのループ状のステンレス管内にスタック(セラミックハニカムセル)を挿入したものである。スタックの両端を熱交換器で挟み,その両端に温度勾配をつけていくと,ある値で管内気柱(空気)は自発的に振動し始める。結果的にループ管の周りをある一定方向に伝播する進行波音波が発生する。我々はスタック内部で起こる「熱流」から「仕事流」へのエネルギー変換を遂行している熱力学的サイクルに注目する。熱音響原動機は一般のエンジンが備えているピストンやバルブ等の可動部を待たない。外部から熱力学的サイクルを制御するための手段(可動部)を持たない熱音響原動機のエネルギー変換はどのような「原理」によって遂行されるのだろうか?我々はこの「原理」を実験的に提案するためにスタックの条件(熱緩和時間)を変えながらスタックの周りの「圧力分布」,「流速分布」および「圧力と流速の位相差」を実験的に調べた。現在の実験結果はスタック内部での「エントロピー生成」がより少なくなるような熱力学的サイクル(音場)を原動機が自己調整していることを示している。この原動機では「エントロピー生成最小の原理」が実現されているに違いない。この原理を冷凍機へ応用することによって,次年度は新しい熱音響冷凍機の試作・提案をしたい。
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