研究概要 |
Newtonの音速計算以来「音」と「熱力学」との関係は深い。エントロピー変動を伴わない自由空間を伝播する断熱音波と異なり,細管内を伝播する音波は管壁での熱伝導や粘性効果によりエントロピー変動やエントロピー生成を生じる。さらに細管内の気柱に温度勾配があると,非平衡状態に特有な散逸構造を発現する。その一例が気柱の自励振動である。細管内で観測される現象は多様でそのほとんどは細管内を伝播する音波のエントロピー生成の問題と密接な関係がある。 本研究の成果は2つの柱から構成されている。第一の成果は,Kirchhoffの細管を伝播する音波理論の実験的検証が出来たことである。細管内音波は古典音響学の基礎であり,またエンジンや冷凍機がもつ蓄熱(冷)器のような多孔質物質を伝播する音波の理論的なモデルとなっている。しかしいまだに検証されていなかった。第二は,温度勾配のある細管内で観測される種々の熱音響現象がプリゴジンの「エントロピー生成最小の原理」によって合理的に説明できることを実験的に明らかにしたことである。非平衡状態では,気柱は自ら「エネルギー変換」を実行しエンジンの機能を発現する。また,温度勾配を持つループ管内で発生した進行波型熱音響現象では,蓄熱器内部で生成されるエントロピーが最小となるような音場(圧力や速度分布)が形成される。これらは「エントロピー生成最小の原理」の妥当性を示す実験的証拠である。 上記に基づき,可動部を持たない進行波型エンジンを試作し,その音響出力を計測した。熱音響エンジンの効率にとって,音響流の抑制が重要である実験的事実が得られた。
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