本研究の目的は非平衡非線形系の代表的な数学的モデルの一つである結合振動子系の動力学(特に引き込み現象やカオス)を明らかにすることである。ただし、従来の研究とは異なり、一つの系内に定性的に異なる振動子や相互作用が共存する場合を主に扱う。このような系の振る舞いは、例えば、非平衡非線形系(脳神経系など)における経年劣化(エイジング)の効果を明らかにしたり、結合振動子系を工学的に応用する上で重要である。今年度の研究では以下の成果を得た。 (1)エイジング転移と普遍的スケーリング則の発見 振動子集団が自律的な振動子(active oscillator)と非自律的な振動子(inactive oscillator)の2種からなり、それらが拡散的に大域結合しているものとする。このとき、後者の割合(p)を増やしていくと、系全体の活動度をあらわすオーダーパラメーター(M)が、pのある臨界値でゼロになることを発見した。この臨界値は振動子問の結合強度に依存し、結合強度がある値(臨界結合強度)以上では1よりも小さい値となる。このような転移をエイジング転移と名付け、この転移点付近でMがある普遍的なスケーリング則に従うことを数値的かつ解析的に明らかにした。この結果はリミットサイクル振動子でもカオス振動子でも成り立つ。 (2)引き込み相転移のオーダーパラメーターを実験的に測定する新しい方法 本研究の対象のひとつである引き込み相転移は、最近、実験的にもかなり精密に研究されるようになってきているが、理論的なオーダーパラメーターを実験的に測定するための方法論は未発達のままである。本研究で得られる結果を将来、実験的に検証するためにも、そのような方法論を発展させることは重要である。このため、米国の実験者グループと協力し、一般化オーダーパラメーターを測定する簡単な方法を提案し、ある電気化学反応系に応用して、その有効性を実証した。
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