研究概要 |
本研究は、カオスや乱流が存在するとき散逸構造の下ではどのような物理過程が存在しているかという問題、すなわち、エネルギー散逸,熱の発生,エントロピー生成などの熱統計力学的なrealisticな輸送現象としての側面から力学系を見るための基礎となる研究である。 具体的には、カオスや乱流を表わす非線形決定論的方程式に射影演算子法を適用して、揺動力を含む線形確率方程式を導き出し、その揺動力の時間相関関数から輸送係数を得るという手法を用いた。数値シュミレーションを通して、所謂カオス輪送現象と呼ばれる現象の存在を明らかにし、それに伴う輸送係数を具体的に求めその物理的な意味の解明を目指した。 先ず、典型的なカオスを示す散逸力学系、特に周期外力のかかった系としてはもっとも簡単なカオス系であるDuffing系と保存力学系カオスのある種の典型例であるHenon-Heiles系に射影演算子法を適用し記憶関数を求めた。更に、Fourier-Laplace変換により記憶関数スペクトルの形でカオス摩擦係数を取り出すことを試み、一応の成果を得た。次に力学系の実変数のパワースペクトルで見られるカオスによるピーク構造をこの記憶関数スペクトルで解釈できるかどうか研究を進めた結果、大局的には「カオスによるピークは非対称Lorentzianの重ね合わせで表現できる」こと、そして「そのピーク構造は近似的ではあるが記憶関数スペクトルと一定の関係がある」ことを明らかにした。しかし、ここで得られた関係式は取り扱う系の非線形性により異なるため残念ながらそこに普遍性を見出す事はできなかった。研究計画ではこれらの量のカオス分岐による変化やここで取り扱った系以外の様々な典型的な系に対して同手法を適用し、系に依存しない普遍性を見いだす予定だったが、それは今後の課題として残った。
|