連続変数の量子暗号について、安全性に関する理論的な研究、および実用化を目指した実験な研究を2つの方式について行った。2つの方式というのは、光ファイバーを量子通信路とするプラグアンドプレイ方式と、昨年特許出願を行った自由空間を通信路とする同軸光学方式である。 連続変数の量子暗号の場合に、プラグアンドプレイ方式を実現するためには、信号光と局部発振光の間に大きな強度差をつける仕組みを導入する必要がある。我々は音響光学素子を利用して、通信路の光損失を時間的に切り替える方式を考案し、この方法を用いたプラグアンドプレイ実装の実証実験を行った。プラグアンドプレイ機能は、安定的に鍵を生成するためには必要な機能である。実験的には、音響光学素子を使って、きちんと信号光と局部発振光の強度を制御できるここと、種々の反射光の影響などを知る必要がある。我々の実験で用いたプラグアンドプレイ方式の伝送距離は10kmである。実験の結果、音響光学素子を使った強度の制御が可能であることが分かり、量子鍵配送を実現することができた。しかし、平均パワーの増加と共に過剰雑音が増加する傾向が見られた。 自由空間の伝送は見通しのきくビル間の鍵配送のほか、地上と人工衛星間で鍵配送を実現できれば、量子鍵配送可能な距離を大幅に延長できるので、各国で活発に研究されている。自由空間量子鍵配送を実現する上での重要な課題の一つは、太陽光などの余分な光がある環境下で微弱な光の送受信を行うことである。この観点からすると、単一光子検出よりも迷光に強いホモダイン検出を使う連続変数方式は有利であると期待される。しかし、連続変数方式は、長距離にわたる安定した干渉計を必要とするという課題があった。我々は電気光学結晶の異方性を利用する同軸光学方式を考案し、昨年度特許出願を行った。今年度は本方式の実証実験を行い、伝送距離50cmと5mで、量子鍵配送を行うことができた。但し、この場合も距離が長い方が揺らぎが増加する傾向が見られたので、この原因を明らかにするなどさらに研究を進める必要がある。
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