本研究では外部磁場制御によってボース・アインシュタイン凝縮体中の原子のスピンを操作するという方法で、凝縮体の波動関数に幾何学的な位相を付加し多重渦度を有する量子渦を生成した。また、生成した渦の磁気トラップ中、及び光トラップ中でのダイナミクスを調べた。以下に、具体的な方法や成果について記す。 (1)高精度・高速に磁場を制御するための高精度電流コントロール回路系を製作した。また、高い時間分解能で測定系を制御するためのソフトウェアの開発やコンピュータ等のハードウェア系の整備を行った。 (2)内部自由度のある凝縮体の基礎的な性質を知るための実験として、光トラップ中のスピン自由度のある^<87>Rb凝縮体の様々な外部磁場環境下での時間発展を観測し、この凝縮体の磁気的性質についての知見を得た。 (3)開発した装置を用い、磁気トラップ中に生成した凝縮体に加えられているバイアス磁場の方向を反転させて、多重渦度を有する量子渦の生成を行った。バイアス磁場は0.5Gから-0.5Gに変化させ、磁場反転時間は1ms〜10msの間で変えていき、5msの時ほぼ100%の効率で量子渦を生成できた。量子渦の最大観測可能時間は10ms程度であった。これは磁場反転により磁気トラップの形状が変化し、凝縮体が膨張するためであろうと考えられる。凝縮体の膨張の度合いを詳細に調べるため、直行する2方向からの同時撮像を行い10ms程度で原子集団が2倍程度に拡散してしまう事が分かった。 (4)凝縮体の膨張を制御するため、渦を生成した後、凝縮体を光トラップに再捕獲する実験を試みこれに成功した。全光学的に凝縮体を捕獲する事で膨張を制御でき、さらに量子渦の寿命を20ms程度まで延ばす事に成功した。また、光トラップ中に20ms程度捕獲していた場合、2つに分裂したと思われる量子渦が観測された。詳細な分析は今後の課題であるが、我々が生成した渦度4の量子渦では初めての渦分裂の観測であると思われる。
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