C_<3v>の対称性を持つ1-シアノアダマンタンC_<10>H_<15>CNは、プラスチック相において分子の重心に関する併進対称性を保ち、分子主軸まわりで回転しながら<001>及びそれに等価な5つの配向間を飛び移る(6配向運動)無秩序な状態にある。プラスチック相の1-シアノアダマンタンをガラス転移点T_g=170K以下にクエンチすると、併進対称性を維持した状態で分子配向がランダムに凍結した配向ガラス相へと転移する。この物質のプラスチック相、準安定相、配向ガラス相のダイナミクスを核磁気共鳴(NMR)、分子動力学(MD)シミュレーションで調べ、ガラス形成の起源を探ることを研究目的とする。 ^<13>C核のNMRから、配向ガラス相においても分子は主軸(C_3軸)のまわりで回転(一軸回転)しており、プラスチック相の一軸回転の活性化エネルギーはプラスチック相と比較すると、有意に小さいことが分った。これはガラス相において一軸回転の相関時間に分布があることを示す。Davidson-Cole型を仮定して解析した結果、相関時間の分布を表すパラメータβは0.21と求まり、一軸回転の相関時間の分布が非常に大きいことが分かった。またプラスチック相では、分子は6配向運動をしており、準安定相では<001>配向運動の他に<111>の8配向運動が加わることが分った。さらに、この準安定相は約3200秒で秩序相へ構造緩和することを明らかにした。 MDシミュレーションでは、プラスチック相における<001>の6配向運動の相関時間には分布があり、配向運動の相関関数がstretched exponentialでフィットできることが分った。6配向運動の相関時間の分散の温度依存を調べた結果、分散の程度は温度の低下と共に顕著になる傾向があることか分った。また、βも減少することが分かった。さらに、6配向運動の相関時間の分散を調べた結果、相関時間の分布は相関時間の分散に起因することが分かった。
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