本研究は、誘電分光法や小角散乱法を中心とする分光学的手法と散乱手法を巧みに組み合わせ、生体由来の両親媒性分子が水中で示す自己組織体形成に関し、「粒子構造と粒子問相互作用ポテンシャル(静的構造)」と「溶媒ダイナミクスや自己組織体親水部への水和挙動など動的側面」の相関を解明することを主要な目的とした。 本課題の基礎をなす水素結合液体ダイナミクスに関する分光学的研究では、これまで未解明であった水やアルコールの一次(分極揺らぎ)及び二次(分極率揺らぎ)動的感受率の対応関係について、誘電スペクトルに主要な寄与として現れる協同緩和の寄与を差し引くと残余の高周波成分がラマンスペクトルと相似形を示すことを見出し、確度の高い解釈を与えることが出来た。水素結合液体ダイナミクスに関するミクロ・マクロ相関の抜本的解明へ向けた重要な基礎となる成果であるといえる。 生体由来及び合成の両親媒性高分子が水中で形成するナノ会合体(特にミセル)の構造、粒子間相互作用及び水和挙動を、静的構造と微視的・集団的分子ダイナミクスの双方の観点から検討した。厳密にはミセルは決して剛体球ではないが、誘電分光による水和水の実効体積評価を小角散乱の構造因子分析と組み合わせることによって、排除体積効果や系の断熱圧縮率に対する水和水の効果を定量的に説明できることを明らかにした。糖脂質ベースのマイクロエマルションに関して、系の自由エネルギー最適化に伴うミセルの棒状化や紐状化と相挙動の密接な関連を示す結果を得た。さらに、実験的静的構造因子を分析する新たな方法論の構築に取り組み、最適化された間接的逆フーリエ変換法によって、従来の液体回折法で用いられた散乱ベクトルで重みをつけた構造因子を用いずに同径分布関数を計算可能であることや、溶液中における蛋白質問空間相関に関する実空間秒像を相互作用ポテンシャルフリーに求めうることを確認した。
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