研究概要 |
本年度は主として沈み込むスラブの変形・応力場に関する研究を行った.プログラムの開発及び中規模計算のため,HPCサーバーを導入した.高分解能のスラブモデルを作成するため,安定に効率良く計算が行えるマントル対流プログラムの開発を行った.これにより,マントル対流系の一部としてのプレートを1〜2km程度の分解能で再現出来るようになった.このプログラムを用いて,沈み込みおよび沈む込むスラブとマントル遷移層との相互作用に関する数値シミュレーションを行った.この計算では,上盤プレートの自由な運動が起きるモデルを開発し,今まで計算よりも実際の沈み込み帯に近い浅い角度で沈み込むスラブを再現することが可能になった.プレートのレオロジーとして,プレートの引っ張り強度,相転移に伴う鉱物の細粒化による強度(実効粘性率)の低下を考慮した.今回は相転移が熱平衡のみで決まる場合のみを考えた.この結果以下のようなことが分かった.(1)初期に浅い角度で沈み込み始めたスラブは重力的に不安定であり,スラブの沈降が起こるので,それに伴って海溝の後退が生ずる.(2)海溝の後退により,スラブはunbendingを起こすので,スラブの上半分に圧縮応力場が生ずる.(3)海溝の後退が起きるときには,スラブの660km相転移面に対する相対運動が小さくなるため,横たわるスラブが形成されやすくなる.(4)このとき,スラブは660km相転移面からの上向きの力,410km相転移面からの下向きの力を受け,遷移層のスラブにトルクを生じるため300から400km付近で大きな破壊が生ずる.これは深発地震の深さ・頻度分布とは合わない.現実的な応力分布を作るためには,例えばマントル遷移層でのスラブ強度の低下,オリビン・スピネル相転移での準安定相の存在の様な別のメカニズムが必要であることが分かった.
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