研究概要 |
本研究の目的は,「東アジアの季節サイクルの変調」という視点を新しい切り口として異常気象に関する理解を深め,温暖化などに伴う東アジアの気候変化の予測のための基礎的知見を得ることである。今年度は初年度として,季節遷移の時期や各ステージでの日々の現象も含めた季節進行の詳細な基本過程とその変動についてデータ解析を行うとともに,大気大循環モデルを用いた研究のための諸準備を行った。主な成果は次の通りである。 1.梅雨前線と秋雨前線の共通性と違いについて,変動特性,日々の現象,前線の北側のシステム等に関連して調べて整理し,(1)九州北方の地上梅雨前線への南風が持続する時,九州では線状降水系が多発し,梅雨前線の急速な南下のような日々の前線全体の振る舞いに重要な役割を果たしうること,(2)前線帯への水蒸気輸送を担う下層南風強風域の東西分布の季節内変動も大きいが,東日本側へ主に吹き込む際には前線帯での降水過程への影響が西日本側とはかなり異なること,等に見られる季節的・地理的基本場の重要性を示した。 2.最近25年間における解析によれば,最近の梅雨前線の強化にともなって、日本や中国域で降雨の増加が有意に見られる一方,モンゴルやフィリピンでは降雨が減少していた。中国域の梅雨降雨の増大に関連する気圧場の変動に対し,シベリア域やチベットでの気候変動の寄与も大きいことが分かった。 3.中国大陸上の梅雨前線の南側でのとりわけ大きな水蒸気量の維持,また,その北側への水蒸気の侵入に対して,「湿った熱い陸面」という中国大陸域の役割の重要性を示唆した。 4.2004年のように,5〜6月にも台風が日本付近に接近しやすい状況をもたらした要因に関連して,南アジアや熱帯西太平洋域でのモンスーンが十分確立する前のステージでの亜熱帯高気圧セルのアノマリーが果たす興味深い役割を指摘した。
|