研究概要 |
成層圏に関するこれまでの研究は,帯状平均場とそこからの偏差としての波,およびそれらの相互作用という枠組みで行われてきた。このような立場に立つ限り,説明できない事例が数多く出てきており,新しい枠組みを必要としている。それは時間平均場(帯状非一様場)とそこからの偏差という枠組みである。本研究はこのような立場からの最初の総合的な研究である。特に数値実験的な研究はこれまで誰も行っておらず,世界で最初の試みである。またそれを補強するための様々なデータ解析を行った。特に北極振動(AO)という概念の批判的検討を中心とした。 対流圏・成層圏の結びつきに関するデータ解析は以下の結果を示す。対流圏の太平洋-北アメリカパターン(PNA)が鉛直伝播し,成層圏で波数1パターン(W1)になる。さらに対流圏でのPNAの卓越が成層圏W1モードの励起を経て,成層圏の環状パターン(AM)の増幅というつながりを持つことである。これはある場合は突然昇温を引き起こす。AOという概念とは明らかに異なる。 そこから数値モデルを用いて,対流圏と成層圏とで異なる波数が卓越する現象をシミュレートするとともに,そのためには基本場としての帯状非一様場が必須であることを,定常モデルと時間積分モデルを用いて明らかにした。またPNAからW1,AMというつながりもシミュレートした。 対流圏における卓越パターンの真偽性にっいての研究も行った。結論は,北大西洋振動(NAO)とPNAという2つの独立した振動が対流圏での基本的な卓越モードであるが,それらは空間相関を持つので,見かけ上AOが現れるというものである。従って成層圏との関係もこれらを中心的に調べればよいということになる。 突然昇温の予測可能性も研究を進めた。その結果,波数1のプラネタリー波が引き起こす突然昇温に比べ,波数2や3のプラネタリー波が関わる場合は予測が難しいことを示した。
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