黒潮の源流は熱帯域に続く。その熱帯域には、赤道域に捕捉されたロスビー波やケルビン波、混合ロスビー重力波などの赤道波の存在が知られていおり、これらの波動の挙動は北赤道海流や黒潮源流への影響もあると考えられている。この波動について、衛星海面高度計データを用い解析を行った。熱帯域では上層の暖かい海水と下層の冷たい海水の境界において生じる内部波(赤道波)が存在する。この赤道波は、エルミート微分方程式の解(モード)として表され、特有の波数と振動数の関係(分散関係)をもつ。そこで、内部境界面変動に比例して変動する傾向を有する海面高度に対し、最良適合法により赤道波モードヘの展開を行った。得られたモードに対し、波数と振動数に関するパワースペクトル密度(PSD)を求め、PSD分布と理論分散曲線との比較を行った。その結果、低次ロスビー波のPSDは理論分散曲線よりいくぶん低い振動数域に分布したが、ケルビンモードや高次ロスビーモードは理論分散曲線近くに集中し分布した。この事から、特に季節内変動程度の短い時間スケールでは、赤道近傍の波動擾乱は赤道波の性質を有していることがわかった。 昨年度は黒潮の数値モデルによるシミュレーションを行った。このモデルの妥当性を調べるため、黒潮が流れる東シナ海や黄海に於いて、モデル結果と衛星海面高度計データや潮位データとの比較を行った。併せて海面変動の原因を考察した。モデル計算の海面高度と潮位計データを比較した結果、モデルは振幅と位相ともに季節変動を良く再現していた。海面高度は夏季に高く冬季に低い傾向がある。その変動要因のひとつとして熱膨張効果について考察を行った。海面熱フラックスの季節変化に起因した海水熱膨張を通じて生じる海面高度の変動幅を計算すると、東シナ海において15cm、黄海において11cmであった。しかし、この変動幅は、衛星観測やモデル結果の約半分を説明できるのみであった。また、衛星観測やモデルの位相は渤海や黄海北部において早く、中国東岸の東部では遅い傾向にあった。これらの位相の局所的な差も、熱膨張効果のみからは説明できない。そこで、別の要因として風の効果が挙げられる。冬季の北からの季節風の吹き出しは、黄海北部から海水を南に押し出し、海面変動の振幅を増大させ位相を早めると考えられる。
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