まず、化学輸送モデルに、極域のオゾン破壊を再現するのに重要な、大気の球面形状を考慮した太陽放射伝達スキームを開発し、CCSR/NIES化学気候モデルに導入した。これによって、南極オゾンホールの開始時期がこれまでのモデルより10日ほど早くなり、それに伴ってオゾンホール発達時期の南極のオゾン量が約20DU少なくなり、観測値によく合うようになった。 次に、この大気の球面効果を入れた化学輸送モデルを用いて、1997年の北極渦内で起こったオゾン破壊によるオゾン濃度低下が、そのまわりの中緯度のオゾン濃度に及ぼす影響について調べた。その結果、この年のような希に安定した北極渦の下では、その内部でのオゾン破壊の影響は極渦の外側のごく近く(等価緯度にして5°〜10°)の領域に限られることがわかった(1997年2月および3月)。 最後に、化学輸送モデルによって計算された北半球中・高緯度および北極域下部成層圏の亜酸化窒素(N_2O)の1978年〜2002年の25年間の分布をPDF解析によって調べ、北極渦崩壊の早い年と遅い年でその分布に明確な違いがあること、極渦を含む45°N以北全体で見れば極渦崩壊の早い年に冬期の下降流の強化されることがその主な原因であるが、極渦内だけを見れば極渦崩壊の早い年は水平方向の混合も大きくなっていて、むしろこちらの方の寄与が大きいことが見いだされた。 以上のような、3次元化学モデルを用いたN_2Oおよびオゾン濃度の長期変動の計算によって、北極域および北半球中緯度域のN_2O濃度の年々変動と大気の力学的な特性(子午面循環と波動活動)とを関連づけ、さらに、限られた期間ではあるが、北極域大気と中緯度大気の混合による北極域オゾン破壊の中緯度への影響についても明らかにできた。
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