研究概要 |
本研究は上部マントル由来のかんらん岩体に記録された情報をもとに、マフィック岩を包有する不均質なリソスフェリックマントルの部分融解プロセスを解読することを目的として実施された。北海道日高変成帯の幌満かんらん岩体に胚胎するマフィック岩の野外の産状と主成分・微量元素(希土類元素とHFS元素)の分布をセンチメートルオーダーで詳細に検討し、過去8千万年前にアセノスフェアの上昇に伴い、幌満岩体のマフィック岩がどのように部分融解し生成したメルトがどのように母岩のかんらん岩と反応したのか検討を行った。その結果、主要な2種類のマフィック岩のうちタイプ1と分類されるものは、岩層の内部で希土類元素含有量の変化が著しく、中心部から境界部に向かって軽希土類元素が100倍まで上昇し、一方、重希土類元素が10分の1に減少することが判明した。これらの結果から、タイプ1のマフィック岩は再溶融によって岩層境界部のメルトと岩層中心部の残存固相(ザクロ石輝岩)に分化したものと推定される。再溶融の年代は、Sm-Nd同位体組成から約8,000万年前と推定される。一方、中東オマーンオフィオライトのマントルセクションの鉱物化学組成の広域的分布から海洋リソスフェリックマントルの再溶融の痕跡を見いだした。これらは、マントルセクションを斜行する剪断帯に沿っており、剪断帯の形成に伴う流体の通過とそれに伴うマントルかんらん岩のソリダス温度の低下の結果、再溶融が引き起こされたと考えられる。このように再溶融は上部マントルにおいて普遍的な現象であることが確認された。本研究は、地表に上昇・露出したかんらん岩体に部分融解による組成変化の証拠を直接的に検出した点に意義がある。
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