研究概要 |
2004年度は,主に北海道東部の津波堆積物に関する3つの研究を行った. (1)2003年十勝沖地震津波による土砂移動の検討 9月26日未明の北海道東部,十勝沖で起きたプレート境界型地震によって津波が発生したことを知り,我々は,翌日9月27日から被害の大きかった広尾町の十勝港と豊頃町の大津港間の十勝海岸地域において津波痕跡の緊急調査を行った.私達以外にも気象庁,北大,東北大他の大学調査団が別途津波痕跡の調査を行ったが,基本的に彼らの専門分野は地震学もしくは海岸工学であった,現地において我々は出来るだけ彼らと連携して,堆積学者の目から見た津波痕跡の現地記載を行った. (2)釧路市春採湖湖底の津波痕跡研究 北海道東部,千島海溝沿岸域には広大な湿原や海跡湖が多数存在する.これらの一つである春採湖は一部で浚渫や廃土が行われているものの,その多くが人口改変を受けず,湖底堆積物が手付かずのままで保存されている.春採湖湖底から採取されたコアは,約9500年前〜現在までの沖積層からなり,そのうちの珪藻質泥層中には,主に海成起源の砕屑粒子から構成される22層のイベント堆積物の存在が確認された,これらは千島海溝で周期的に発生する巨大地震津波痕跡と解釈された. (3)厚岸町国表寺前での津波痕跡トレンチ調査 北海道開拓記念館と共同研究で,厚岸町汐見川底他において津波痕跡調査を実施した.その結果,過去約3500年間に堆積した泥炭層中に8層の海成イベント堆積物(Aks1〜Aks8)の存在が確認された.今回の調査で得られたイベント層序は,北海道東部太平洋沿岸域におけるイベント堆積物の層序と整合的であり,Ts3〜Ts10に対比されると判断される.10〜17世紀に生じたAks1とAks2の分布から,約2620m以上の遡上距離と5.5m以上の遡上高を持つ巨大津波が復元される.これらは1952年や1843年に調査地域に襲来した十勝沖地震津波の遡上規模を大きく上回っていることが確認された.
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