研究概要 |
今年度は,昨年度2月に釧路市春採湖で採取された湖底コアを詳細に解析し,湖沼堆積物中の津波痕跡について詳細な検討を行った.この春採湖コア(コア長約15.1m)を堆積学的手法で解析した結果,本コアは過去9500年間に堆積した湖底堆積物からなり,その中には,主に海成砂起源の砕屑粒子から構成される22層の砂礫層(OTS1〜22)が存在する.それらは何れも明瞭な浸食基底を持ち,同時偽礫を含んでいる.また,砂礫層は平行ラミナ等の掃流による堆積構造を示し,それを不淘汰な有機質泥が覆うシークエンスをなしている.これらの発生間隔をAMS14C年代と広域テフラで検討した結果,約500年と見積もられ,千島海溝で繰り返し発生した巨大地震津波起源のイベント堆積物と認定出来ることが分かった.さらに,珪藻遺骸分析の結果,以下の5点が明確になった.(1)春採湖地域では,9500年頃に海進が達し,OTS22イベント(約8500年前)までの間,エスチュアリー環境であったが,それ以降は内湾環境に急激に変化して,珪藻質泥層が堆積するようになった.(2)それ以降の急激な海面上昇によって,OTS10イベント(約3500年前)までの期間は主に内湾環境が卓越した.しかし,この安定した海面上昇期間でも,OTS20(約8000年前)とOTS18イベント(約7000年前)時には,一時的に湖水環境になった.これらは,巨大地震津波によって湾口閉塞が生じた可能性が示唆される.(3)OTS9イベント(約3000年前)以降に,現在の汽水環境が成立した.これは巨大地震津波による湾口閉塞が原因と考えられうる.(4)OTS9イベント以降におきた8回の津波流入によって,湖の塩分濃度が繰り返し上昇した.さらに,今秋11月に,根室市街地地域の沿岸湿地において,トレンチ調査を行い,湿原遡上時に生じる津波痕跡の内部構造の検討を現在行っている.
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