研究概要 |
1998年夏,琉球列島など国内のサンゴ礁の広い範囲において観察史上もっとも大規模なサンゴの白化現象が発生した。本研究では,サンゴの白化に際して骨格にはどのような記録が残るか,また,1997-98年のような大規模な白化現象は過去にも起きていたかどうか,を明らかにする.研究開始後2年目にあたる平成17年度は,引き続き「長尺サンゴ柱状試料を用いた過去の白化記録の解析」を進めるとともに,「サンゴ骨格の酸素・炭素同位体比にみられる代謝の影響と速度論的効果」について検討した。 まず、1997年以前に,サンゴの成長に何らかの異常を伴うイベントがあったかどうかの検討を、石垣島東岸の安良崎沖の大型ハマサンゴ群体に加え、沖縄本島中部瀬底島のサンゴ礁から採取した複数のハマサンゴ群体について行った。これらについて、過去30年間以上の記録を分析したところ、1998年以前に白化起源と思われるような酸素同位体比プロファイルの変形は認められなかった。このことからも1998年の白化イベントの特殊性が伺える。 通常,サンゴ骨格の酸素・炭素同位体比はそれぞれ水温および日射量の指標と解釈されているが,年間の骨格成長速度が2mm/yrを下回るような状況では,炭酸カルシウム生成の際に生じる速度論的同位体効果が卓越し,酸素・炭素同位体比ともに平衡値に向かって増加する傾向を持つことが指摘されている.1998年の白化現象で骨格成長が減退したハマサンゴの場合,石垣島の試料では、光合成の効果消失現象が認められたのに対し、オーストラリアの試料については速度論的同位体効果の変化にによると思われる値の増加が認められた。これらの反応の違いは、サンゴの生息環境や履歴の違いに依存していると考察された。
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