岩手県葛根田地熱系近傍の地熱探査井IT-2コアでみられるスメクタイト-イライト変換反応に対して、昨年度は混合層構造、化学組成、および酸素同位体組成変化について定性的に記載した。本年度は、スメクタイト-イライト変換反応機構の精密化を図るために、上記の試料を用いてXRDによる混合層構造の一次元構造解析、アルキルアンモニウムイオン処理による成分層の膨潤特性を評価するとともに、アルキルアンモニウムイオン置換した試料のHRTEM観察を行った。その結果、火山ガラスを母材とする熱水変質過程におけるイライト-スメクタイト混合層鉱物の生成は、従来考えられていた固相転移や単純な溶解再結晶作用による変化ではなく、特にライヒバイテ(R)0の混合層鉱物はレクトライト様のR1の混合層の直接沈殿によるスメクタイトとR1の混合物と見なせることなどが明らかとなった。これらの成果は、Clays and Clay Mineralsへ2つの論文として公表した。さらに、これまでの成果を合わせた内容を平成17年8月に開催された国際粘土会議(於早稲田大学)のシンポジウムにおいて発表した(この内容はClay ScienceのSupplementとして掲載された)。平行して行っているカオリン鉱物のポリタイプ変化機構に関する研究成果もすでにいくつかの論文として発表した。これらの成果は現時点で最も精密なデータに基づく変化機構モデルであると信じる。 これらの研究をとおして、溶液の存在する場における粘土鉱物の構造変化は溶解過程と成長過程が共存して進行することが一般的であると見なせる有効な事例研究を提示することができた。今後さらに、この研究を進め、混合層鉱物のみならず、カオリン鉱物の相変化過程の精密化を図っていく予定である。また、これらの研究を通して新たな問題も見いだされているので、来年度はそれらの問題解明への足がかりと位置づけたいと考えている。
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