研究概要 |
本研究では,超高圧高温条件におかれているオリビン(α相)が,高圧状態を保持したままで温度が低下するという過程において,構造相転移を生じリングウッダイド(γ相)を生成しうるかという問題の検証をすすめた.特に,マルテンサイトメカニズムによる相転移現象の発現に注目した. 本年度は以下の実験を行った. 1)マルチアンビル型高圧発生装置を用いた高圧実験と回収試料の観察. 2)Divnoe隕石中のオリビンの微細組織の観察 1)の高圧実験は以下の手順で行った.スカルン中に産出するオリビン単結晶(約(Mg0.8Fe0.2)2SiO4)を出発試料とし,まず11GPaまで加圧した後に1400℃に加熱した。この状態を2時間保持した後,高圧実験装置の油圧を一定に保つ,あるいは,わずかに増加させることで圧力を11GPa保持し,温度のみを1000℃および800℃に減少させた。この状態を5時間保持し,その後,急冷して試料の回収を行った。また,回収試料の微細組織の観察を,電子プローブマイクロアナライザーと透過型電子顕微鏡を用いて行った.以上の実験を繰り返し行ったが,マルテンサイトメカニズムによるオリビンのα相からγ相への構造相転移を認めることができなかった. 2)の研究では,電子線後方散乱回折装置(EBSD)を用いて,Divnoe隕石中のオリビンに発達するラメラの結晶学的な特徴を明らかにした.EBSDによる測定の結果,このラメラは(100)面上に発達するほぼ円形の形態を有することが分かった.この特徴は,ラメラがマルテンサイトメカニズムによる相転移に起因するものであることを示唆している. 本年度の研究のうち隕石の観察からは,隕石母天体中においてオリビンの構造相転移が生じた可能性が示唆されたが,高圧高温実験からは,このオリビンの相転移過程を再現することができなかった.これは,低温条件においては相転移速度が非常に遅く,室内実験では相転移を再現できない為ではないかと考えられる.
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