研究概要 |
本研究課題の最終年度に当たり,これまで行ってきた実験データの解析とまとめを行い,本研究課題の目的であるカンラン石の格子歪みと衝撃圧の関係を表す較正線を作成した. 衝撃継続時間を変化させて行ったカンラン石の衝撃実験の結果から,ガンドルフィカメラを用いて回折X線の広がりから推定されたカンラン石の格子歪みは衝撃圧と比例関係にあるものの,衝撃継続時間が長くなるとその関係を表す直線の傾きは大きくなり,2μS以上の衝撃継続時間で一定の値に集束する.実際の隕石での衝撃継続時間は衝突体が衝撃実験で用いることが出来るものより格段に大きいことから,衝撃継続時間は数秒に達していたとみられている. 衝撃を受けている実際の隕石より取り出したカンラン石の格子歪みを測定し,それに対してこれまでに判定量的に見積もられた衝撃圧との関係から,カンラン石の格子歪みと衝撃圧の関係を表す較正線の範囲を推定すると,推定衝撃圧として2割程度の幅を持つ範囲で較正線の存在領域が限定された. これまでに行ったもっとも長い1.8μSの衝撃継続時間での衝撃実験から得られたカンラン石の格子歪みと衝撃圧の関係を表す較正線は,実際の隕石から推定される較正線の存在領域内のほぼ中央に位置し,実際の隕石で得られた結果と衝撃実験で得られた結果がよく一致することを示す.この結果を基に,隕石中のカンラン石の格子歪みを測定することにより,コンドライト隕石が被った衝撃圧を2割程度の不確実さで定量的に推定することが可能となった.本結果は,2006年8月にチューリヒで行われた国際隕石学会で報告した. 衝撃を被ったカンラン石中の転移密度を透過電子顕微鏡観察を基に求めると,転位密度の対数値とX線の回折線の広がりから求められた格子歪みとが直線関係にあることがわかった.このことから,X線回折法で求められるカンラン石の格子歪みは衝撃により形成される結晶内の転移を反映したものといえる.
|