研究概要 |
最適な分子構造を持つ二次電池の負極材の探索を目的として、密度汎関数法による第一原理電子構造計算により、構造欠陥のあるカーボンナノチューブ(SWNT)にリチウムイオンが吸着される過程を調べた。計算には平面波基底によるPAW法を用い、交換相関項に局所密度近似(LDA)と一般化密度勾配近似(GGA)を適用した。簡単のため7員環、8員環、9員環の構造欠陥のみを対象とした。孤立した欠陥を計算するためには、できるだけ大きなスーパーセルを設定する必要がある。本研究ではカイラリティが(5,5)と(8,0)で指定される構造を持ったSWNTそれぞれについて、軸方向に4周期から6周期を設定した大規模なスーパーセルを用いた。計算の結果、構造欠陥のあるなしにかかわらず、(8,0)SWNTへのリチウムイオンの吸着は発熱過程であり、一方、(5,5)SWNTへのリチウムイオンの吸着は、欠陥構造に依存して発熱過程あるいは吸熱過程となり得ることがわかった。次にリチウムイオンが欠陥を通り抜けて拡散するために必要となる、乗り越えるべきエネルギー障壁の値を求めた。その結果、欠陥が大きくなるにつれエネルギー障壁が低くなり、そのピーク位置は欠陥構造のゆがみを反映してSWNTの中心軸へとシフトすることがわかった。さらにリチウムイオンがこれらの欠陥構造を通り抜けて拡散する過程のダイナミクスを第一原理分子動力学法により調べた。一般にSWNTを適当な物理化学的処理により破砕することにより、リチウムの最大吸蔵量を大幅に増大させることができる。本計算結果は、ある程度大きな側壁の欠陥を通してリチウムが安定にSWNTの内部へと取り込まれることを示している。さらに本年度は、代表的な負極材料である同じ炭素系のグラファイトシートについて、層間の結合エネルギーをLDA法とGGA法により詳細に比較検討した。
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