本年度は、シアノフェニルジシランの2つの電荷移動(CT)状態の構造や性質を明らかにするために、以下のように研究を進めた。 (1)シアノフェニルジシラン、及びその溶媒和型クラスターの過渡赤外スペクトルの測定、及び量子化学計算によるCT状態の構造決定: シアノフェニルジシラン、及び水やアセトニトリルとの溶媒和型クラスターの過渡赤外スペクトルを測定した。これまでは、3400-3800cm^<-1>のOH伸縮振動領域の測定を行ってきたが、今回測定領域を大幅に広げ、新たに2900-3200cm^<-1>のCH伸縮振動、及び2100-2300cm^<-1>のCN伸縮振動の測定に成功した。特に、CH伸縮振動については、CIS及びCAS-SCFレベルの分子軌道計算を行い、実測した過渡赤外スペクトルと比較することで、CT状態がS0や局所励起(LE、ππ^*)状態に比べてジシラニル基がねじれた構造になっていることを明らかにした。さらに、CN伸縮振動の測定では、CT状態のCN伸縮振動に加え、これまでにOH伸縮振動の測定で確認されていた電荷移動反応の中間状態とも言えるもう一つのCT状態(CT^*状態)のCN伸縮振動を観測することに成功した。CT状態及びCT^*状態のCN伸縮振動数には6cm^<-1>の違いが見られた。現在、この結果をもとにCT^*状態の性質について考察を行っている。 (2)ジシラニル基のフェニル基に対するねじれを妨げた分子の合成とその分光測定: 新規分子の合成については、合成を終え分離精製を行っている段階で、今後液相での分光測定の後、超音速ジェット中での過渡赤外スペクトルの測定を行う予定である。 上で述べたようにCT状態、CT^*状態それぞれについて過渡赤外スペクトルの測定から構造や性質についての新たな知見を得ることができた。
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