分子内電荷移動(ICT)反応は多くの光化学反応の初期過程として重要な反応の一つである。本研究では、今日でも問題となっている反応に伴う分子構造変化、特に電荷供与部、受容部間のねじれが起こるかどうかを実験的に明らかにすることを目的とした。シアノフェニルジシラン及びその溶媒和型クラスターを対象として過渡赤外分光法を用いたICT反応の実時間観測を行い、シアノフェニルジシランのCH、CN伸縮振動や溶媒分子のOH伸縮振動の振動数変化からICT反応に伴う構造変化やそれに伴う電荷分布の変化を考察した。シアノフェニルジシラン単量体については、CH伸縮振動領域の赤外スペクトルパターンが大きく変化することを見出し、理論計算との比較からCT状態において電荷供与基、電荷受容基であるジシラニル基、シアノフェニル基の間の単結合周りのねじれ型構造変化が起こることを実験的に確かめることに成功した。この内容はJournal of Physical Chemistry A誌に発表した。さらに、ねじれ型の構造変化を妨げた分子を新規合成し、同様の実験を行った。ねじれを抑制した分子では単量体、溶媒和クラスターの両者においてICT反応を示さないことがわかった。この結果は先の結果を支持するものであった。さらに、水やメタノールを溶媒に用いた溶媒和型クラスターの過渡赤外分光を行った結果、ICT反応における溶媒分子の再配向過程を捕えることに成功した。クラスターにおける溶媒再配向を明確に捕えた例は少なく、さらなる発展が期待される。
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