研究概要 |
本研究では,磁場効果の原因であるスピン変換過程に対する磁場効果を,50T超強磁場下で直接観測することを目的として,パルスマグネットの開発,パルスマグネットとナノ秒過渡吸収装置を組み合わせた超強磁場過渡吸収測定装置の開発,さらにそれを用いた緩和機構による化学反応の磁場効果の研究を行った。 平成16年度は新規にビッター型パルスマグネットを作成した。平成17年度では,より高磁場を発生できる,巻き線式水冷パルスマグネットの開発を行った。磁気応力に耐えられるように2×3mmの銅銀線を用い,まずはコイルを無理に固定しない形でのマグネットの試作を行い,磁場発生試験を行った。ロングパルスモード(磁場発生時間が約10倍)で35Tまで磁場を発生することに成功した。 新しいマグネットの開発と併せて,ビッター型パルスマグネットを用いた超強磁場高精度ナノ秒・ピコ秒過渡吸収測定装置でP-アミノフェニジスルフイドのSDSミセル溶液中での三重項増感分解反応に対する,超強磁場効果を磁場依存性も含めて詳細に研究した。レーザー光照射により生成するP-アミノフェニルチイルラジカルの減衰は,磁場の増加にともない遅くなるが,2T以上ではまた速くなる。減衰の速さは10Tで,ほぼゼロ磁場と同じになり,さらに磁場が高くなると,ゼロ磁場より減衰が速くなる。結果として,散逸ラジカル収量増減し,最終的に28Tで約10%減少した。 こうした磁場効果は従来の緩和機構では説明できない。そこで,ゼロ磁場でのスピン変換が遅く,かつ硫黄原子の大きな異方性により高磁場で混和が促進されるという,新しい機構を用いて実験結果の磁場依存性を検討した。ゼロ磁場での超微細相互作用(HFC)による,一重項-三重項ラジカル対間のスピン変換速度を1x10^7s軸^<-1>(実効的HFCCが0,22mT),g値の異方性(δg)を0.02程度として,実験結果をうまく再現できることを見いだした。 本研究により,重原子を含むラジカルの超強磁場下での新しい磁場効果を発見し,そのメカニズムを含む詳細が解明された。
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