光によって物質のもつ磁性を変化させ、制御する試みは新しい物質科学としての展開だけでなく光メモリー残量の開発など光でスイッチする機能分子設計のためにも注目を集めている。スピンが二中心以上で存在し相互作用した常磁性種の光励起状態は多彩な性質を示すことが期待され、光で磁気的性質が変化する新しい物質群といえる。しかし、その光ダイナミクスは未解明で制御には程遠い。本研究では二中心のスピンを持つ多重項光励起状態のダイナミクスをその電子状態・スピン状態・スピン間相互作用の観点から明らかにすることを目的とした。 特に2つのクロモフォアをもつ分子連結系における二中心多重項系のスピン状態とそのダイナミクスを時間分解ESR法、パルスESR法を中心に、明らかにした。 ビフェニルで架橋した銅(II)ポルフィリンーフリーベースポルフィリンにおいては光励起によって中間的な大きさで相互作用する二中心の三重項-二重項系をなす。この二中心のスピン系ではスピン多重度が磁場と分子の角度によって二重項から四重項まで変化することが、パルスニューテーション測定によって明らかになった。すなわち、強い相互作用の極限と弱い相互作用の極限の中間では、スピン多重度を一定のものと定義できるわけではなく、分子配向に依存してだんだんに変化するものであることが実験的に証明された。 また、ビフェニルやp-フェニルで架橋した銅(II)ポルフィリンホモダイマーとバナジル(VO)ポルフィリンダイマーの基底状態ESR測定を行い、二中心の離れたスピン間の相互作用大きさをもとめ、そのメカニズムを考察した。その結果、銅(II)とバナジルで、中心金属の占めるd軌道が異なるものの、二中心の交換相互作用の大きさはほぼ等しいことが明らかとなった。中心金属イオンと隣接π電子系との相互作用を対応する単量体の励起寿命から評価したところ、二中心の交換相互作用との相関がみられ、これまでわれわれが提唱してきたthrough-bond相互作用の機構で説明されることがわかった。
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