まず初めに二重収束型の飛行時間質量分析器(TOF)の設計及び製作を行った。ディレイライン型アノードとマイクロチャンネル板をTOFのイオン検出部に取り付け、装置全体を真空槽の中に据え付けた。信号計測システムの整備及び測定・解析プログラムの開発も行った。広島大学HiSORの軟X線ビームラインBL6にこの真空槽を設置し、シンクロトロン放射光を単色化した後、真空槽の中に導入した。装置の性能評価のため窒素分子(N_2)を用いた測定を行った。軟X線によって内殻励起された窒素分子がオージェ崩壊によってイオン化し、分子回転よりも早く解離するという近似のもとでは、イオンの検出軸を励起光の電気ベクトル方向と一致させることによって、解離生成したイオンは検出器上では検出軸を中心とする同心円状の分布を示すことが予想されるが、実際にそのような形状のイオンの分布が得られ、装置が正常に動作していることが確認された。次にN_2 N1s→σ*共鳴励起でTOFスペクトルと検出器上のイオン画像分布を測定し、運動量画像分布を求めた。Σ-Σ型平行遷移による励起のため、解離生成したイオンの運動量ベクトルは励起光の電気ベクトル方向に強く分布していることが確認された。その後、3フッ化メタン(CHF_3)分子について運動量画像分光実験を行い、内殻励起状態の励起エネルギーが高くなるにつれて生成するH^+の運動エネルギー分布のピークが高エネルギー側にシフトすることが分かった。また、C1s→3pe励起の際に生じるH^+を含むイオン対生成過程での解離時の運動エネルギー放出分布を調べた結果、(H^+-CF_2^+)と(H^+-CF^+)より(H^+-F^+)と(H^+-C^+)の場合の方が解離イオンの持つ運動エネルギーが大きくなることが分かった。
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