本研究は、生体系等の光学的透明性が低い懸濁液で、複数の天然抗酸化剤が含まれる多成分系が示す活性酸素種に対する抗酸化過程の挙動を、蛍光またはESRの時間分解測定により速度論的に研究するための手法確立を目的とする。平成16-17年度の研究実績は以下の通りである。 1 蛍光検出ストップトフロー測定装置により、懸濁溶液系での抗酸化反応速度の時間分解法による定量的な測定に初めて成功した。条件検討の結果、モデルフリーラジカル還元体の蛍光増加、或いはビタミンE(VE)等の抗酸化剤の蛍光減少により抗酸化反応過程が追跡可能であることがわかり、均一溶液系で従来法と遜色ない測定結果を得た。この方法で、エタノール・水混合溶媒にVEを分散したエマルジョン溶液で抗酸化反応速度を測定し、その速度定数が均一領域と大きく異なることを見いだした。さらにDPPHやGalvinoxyl等のラジカルに対するエマルジョン系の抗酸化反応速度測定に成功し、この方法が懸濁系での抗酸化反応において汎用的であることを示した。 2 1275mmの^1O_2近赤外発光の直接測定により、VEエマルジョン溶液における^1O_2消去ダイナミクスを検討した。均一溶液でVEは10^7-10^8M^<-1>s^<-1>程度の^1O_2消去速度を示すが、エマルジョン系ではVE濃度の増大とともに^1O_2寿命が急激に増大した。この結果、VEエマルジョン系では^1O_2が油滴中にとけ込み、^1O_2ダイナミクスが主にVE油滴近傍で起こっていることが示された。 3 天然VEやH_2O_2水溶液の266nm光による直接光分解で生成する中間体ラジカルの生成・減衰ダイナミクスを時間分解ESRにより検討中である。 本研究の成果により、エマルジョン系でのフリーラジカル・^1O_2に対する天然抗酸化剤の抗酸化反応過程が時間分解法で定量的に研究可能となり、その均一系と異なる挙動を解明する糸口が得られた。
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