近年の分光学的手法の発展に伴い、気/液界面膜の分子レベル構造解析が精力的に展開されている。しかしながら、生体膜やエマルション等の複雑な分子組織体の基本骨格をなす液/液界面膜の構造解析に関しては、その適用の困難さから大幅に立ち遅れていた。 本研究では、液/液界面膜構造解析の進展を図り、将来的な生体膜等の構造・機能相関に関する界面物理化学的側面からのアプローチへと展開することを目的としている。 今年度は、油溶性ハイドロカーボン(HC)アルコールであるイコサノールとフルオロカーボン(FC)アルコールであるフルオロデカノール混合系のヘキサン/水界面ギブズ膜を研究対象として選び、界面張力測定によるマクロ観点からのギブズ膜状態の決定、およびシンクロトロンX線反射率測定によるミクロ観点からのギブズ膜構造解析を行った。 (1)界面張力測定(マクロ研究) 混合系の界面張力を温度、溶液濃度、混合物の組成の関数として測定し、熱力学理論解析を行った。この混合系では膨張膜-凝縮膜間相転移に加え、FC凝縮膜-HC凝縮膜間の相転移が新たに観測された。さらに、両アルコールは膨張膜では混合可能であるが、凝縮膜では非混合であることも明らかとなった。 (2)X線反射率測定(ミクロ研究) アメリカ・ブルックヘブン国立研究所内放射光施設(NSLS)のビームラインX19Cにて、鏡面条件下でのX線反射率測定を、溶液濃度一定化で温度の関数として行なった。得られた反射率曲線の解析の結果、(1)ギブズ膜相転移温度では界面被覆率(凝縮膜ドメインが界面を覆う割合)が急激に変化し、相転移温度近傍の吸着膜状態は、メゾスコピックオーダーの凝縮膜ドメインが存在する不均一状態であること、(2)電子密度および膜厚の値より、フルオロデカノール凝縮膜は2次元固体状態に、イコサノール凝縮膜は凝固点直上の液体状態に近い構造を有していることを明らかにした。
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