近年の分光学的手法の発展に伴い、気/液界面膜の分子レベル構造解析は精力的に展開されてきたが、生体膜やエマルション等の複雑な分子組織体の基本骨格をなす液/液界面膜の構造解析は、その適用の困難さから大幅に立ち遅れている。本研究では、液/液界面膜構造解析の進展を図り、将来的な生体膜等の構造と機能の相関解明を界面物理化学的側面からアプローチし展開することを目指している。 今年度は、油溶性フルオロカーボン(FC)アルコールであるペルフルオロノナノール(ω-F)とその疎水基末端を水素化したフルオロノナノール(ω-H)の単独系および混合系のヘキサン/水界面ギブズ膜に関して、界面張力測定によるマクロ観点からの膜状態の決定とシンクロトロンX線反射率測定によるミクロ観点からの膜構造解析を行った。 1 界面張力測定(マクロ研究) 界面張力を温度、圧力、溶液濃度、混合物の組成の関数として測定し、熱力学理論解析を行った。ω-H分子は末端(ω位)双極子の存在により、ω-F分子に比べ、双極子-水および双極子間相互作用に有利な傾いた配向状態(約15°の傾き)にあることが示された。さらに、混合吸着膜中では分子密度の小さな気体膜、膨張膜では両分子は理想的に混和するが、密なパッキング状態にある凝縮膜では隣接するω位双極子間斥力を緩和するため、結果として混合が促進されることが明らかになった。 2 X線反射率測定(ミクロ研究) アメリカ・ブルックヘブン国立研究所内放射光施設(NSLS)にて、鏡面条件下でのX線反射率測定を、溶液濃度一定下で温度の関数として行なった。得られた反射率曲線の解析の結果、相転移点付近で凝縮膜ドメインの界面被覆率は不連続的に変化し、更に凝縮膜ではω-H系はω-F系に比べてやや小さな膜厚を与えるものの、電子密度には大差がなかった。このことは、マクロ研究から導き出された結論を支持するものである。
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