研究概要 |
粘度の高いエチレングリコール(EG)を溶媒に用いて、(i)電子受容性消光剤としてランタノイドイオン(Eu^<3+>,Yb^<3+>)を、電子供与性蛍光体として種々の芳香族分子を用いた系について蛍光消光電子移動を調べ、蛍光消光の速度定数(k_q)、消光距離(r_q)、そして蛍光消光一回当たりの三重項収量(Φ_T)とフリーラジカル収量(Φ_R)を測定した。また、(ii)電子受容性蛍光体、電子供与性消光剤ともに芳香族分子を用いた系についても同様の測定を行った。 k_q vs.ΔG(電子移動反応の自由エネルギー変化)のプロットからk_qはΔG<-1.2eVの領域においてk_q=k_<dif>(拡散律速)であることがわかった。しかし、down-hill領域は(ii)の場合にΔG>-0.4eV、(i)の場合にΔG>-1.4eVと異なっている。また、ΔGがより負になるにつれてΦ_Tは減少し、Φ_Rは増加する。これらの結果は、r_qのΔG依存性の結果も考慮すると、消光機構はΔGに依存し、ΔG≒-1.4eVで消光機構が切り替わることを示している。ΔG<-1.4eVの領域における消光機構は長距離電子移動であり、ΔG>-1.4eVの領域においてはExciplex形成である。しかし、ΔG>-1.4eVの領域の全ての系でExciplex蛍光は検出されなかった。ランタノイドイオンを消光剤として用いた場合、Exciplexは[D^<δ+>A^<(3-δ)+>]という電荷分布を取るので、クーロン反発力により不安定化し、寿命が非常に短くなることが示唆された。また、ランタノイドイオンのEG溶液の粘度測定によって、ランタノイドイオンの濃度が高くなるにつれてEG溶液の粘度が高くなることがわかった。この事実は、ランタノイドイオンとEGの間に強い相互作用があることを示している。(i)の系においてdown-hill領域が拡大した理由として、ランタノイドイオンのサイズが小さいことによる溶媒の再配向エネルギーが大きくなること、そして、この強い相互作用による蛍光体とランタノイドイオンの直接接触の阻害によって、k_qの値が小さくなることが考えられる。
|